目の前には黄色い線が迫る。



 体中の力をこめて後ろに下がろうとした。努力した。全身全霊てそれを拒否した。


 
「あざみ!」



 枕木の間には無数の紫陽花が咲きほこり、その紫陽花の一部になったように、あざみが不気味に揺れながら立っている。




 その横には......





 高津用賀の姿。





「用賀...」




 言葉を発しない用賀はあざみと同じように左右に体を揺らしながら、うつろな目で桜を見つめていた。




「用賀! 助けて! 用賀!」




 響き渡る桜の声に、ようやく用賀が微かに反応した。


 真っ白かった目に黒目が浮かび、瞬きをひとつ。


 ぎこちない動きで顔をぎしぎしと音を上げて曲げ、


 桜の方に顔を向けた。


 曲げた首からは黒い液体が流れ落ち、目からは真っ赤な血が流れていて、


 口からは唾液が垂れ流しになり、歯が折れて無くなり、押さえるものがなくなった唇は、口の中に入り込んでいる。