「桜ちゃん」
桜は線路上に落ちた小物入れとその隣にさく紫陽花から目が離せない。
「さくらちゃん」
遠くから呼ばれる声が聞こえ、
何? と振り返るとそこにはさきほどと変わらない、笑顔のあざみ。
「なに?」
「取ってきてよ」
「何を?」
「ほら、あのケース、落としちゃったから取ってきて」
「何言ってんの?自分で投げたくせに」
「約束する」
「......何を?」
「あのケースを取ってきてくれたら、もう桜ちゃんの前から消える。二度と会わない」
「......」
「約束する」
「...納得させられることのほうが難しいけど、ほんとに?」
「うん」
「忘れる?」
「うん」
「・・・」
桜はもう一度線路を見た。
引き寄せられるような紫陽花がそこにある。

