桜は少しばかり嫌な予感を感じた。

 夜になるのが怖い。夜が来るのが怖い。

 今日は一睡も出来ないだろう。

 テレビもつけっぱなしにして、電気もつけっぱなしにした。

 ベッドに寄っかかるかたちとなって、部屋の隅に置いてあるカラーボックスの上のテレビに集中する。

 小さいガラステーブルの上には飲み物と雑誌。

 伊豆のパンフレットは部屋の隅のゴミ箱の中にぐしゃぐしゃにして放り込まれていた。

 何かがあったとしてもいつでも逃げられるようにと、玄関のカギは開けておき、逃げられる準備だけは整えた。




 夜中の2時を回ったころ、最初の異変が起きた。

 玄関の電気が数回点滅した後、音もなくふっと消えた。

 桜は身構えた。

 台所の外は通路になっている。

 隣の人が通ったのかもしれないが、黒い影がすーっと横切った気がした。





 生唾を飲んだ。