富多子はそのまま最終電車に乗って、自宅のある駅へと帰って行った。

 その電車を見送るのは、あざみ。

 その顔に笑みは無く、無表情に電車の後ろ姿を追いながら、

 線路、枕木の間に咲いているたくさんの紫陽花の元へと歩く。

 紫陽花を踏みつけるように歩き、いつもと同じ場所で足を止める。

 踏まれた紫陽花は潰れることなく、花びら一枚無くすことなく、

 何事もなかったかのように、そこに、ただひたすらに咲く。

 あざみは目だけであの場所を確認し、ひとつ頷く。


ホームの照明が徐々に消え、真っ暗闇の中に最低限のライトだけが光る。

 膝を折って、やんわりと咲き乱れている紫陽花の上に座り込み、そのままゆっくりと肘をつき体を横にして、線路を枕にするように頭を乗せた。

 紫陽花の青く苦い匂いが鼻に届き、下敷きにされた紫陽花はその葉を横たわるあざみの体にきつく巻き付けた。

 ぎしぎしと音を立てて締め上げる紫陽花は、横たわるあざみの体全体、そして首を絞める。



 首を絞められながら笑うあざみは、静かに瞼を閉じた。