「タイラ、なにやってんだろこんなときに」

 飼っている猫の姿もどこにも見当たらない。

 居ても立ってもいられなくなった桜は、デニムにタンクトップというラフな格好に着替え、財布と携帯だけ持って外へ飛び出した。

 今日は家に帰りたくない気分だった。

 猫が帰ってくるかもしれないのでエサと水、それからいつも通り台所を少しだけ開けておいた。

 バイト先に行ってみたが相変わらず忙しそうに動き回っていた。

 これでは話をする時間もないしタイラのことを聞く余裕もないなと諦め、邪魔にならないように店の端っこの席に腰をかけた。

 勝手にやれと言われた通り、自分で作ったコーヒーを飲む。


 カウンターの上に乱雑にに置いてあった新聞に目が釘付けになった。客が読みっぱなしにしたのだろうか。几帳面な店長が読みっぱなしにするはずが無いと桜は思い、もう一口コーヒーに口をつけて新聞に目をやった。



 また、あの駅で事故があったと書いてある。




 若い女性というワードに桜の心臓が跳ねた。


 まさかという思いが全身に走る。


 もちろん名前は書かれていないが、見覚えのあるホームなのは、確かだ。
                            

 カウンターに音を立てて置いたコーヒーカップからコーヒーが跳ねて、カウンターの上に茶色い水たまりを作った。