目を見開く。
覆い被さってきている何か分からない大きなものは、桜の体を後ろから羽交い締めにした。
苦しくて声が出ない。呼吸が出来ない。
体が動かない。
全身が震えて涙が出て、毛穴という毛穴から汗が流れ出る。心臓が大きく跳ねた。
開かれた毛穴から全ての空気が逃げ出していく錯覚に陥り、呼吸は乱れる。
『これ・・・好きなんでしょ? どうぞ。あなたのために持って来たから、受け取って』
後ろから聞こえた声に聞き覚えはない。
男か女かも定かじゃない。
二度と聞きたくないような、ぬめっとした汚泥のような声だ。
桜の目は足下に釘付けになる。
そこに見たものは、だらしなく口を開き、白い泡が飛び散り、
えぐられた片目はどこかへ消え、真っ黒い穴となり、
そこから眼球の中にあるはずの赤黒い肉がはみ出ていた。
両鼻からは不自然に多くの血が流れ、血の塊が鼻の穴を塞いでいた。
垂れた舌は生々しくぬめり、床に着いているが、ところどころ切れている。
ぐじゃぐじゃに変わり果てたその顔は・・・
まぎれもない、高津用賀のものだった。