お願い! 開いて! 開いて! 開いて! 開いて! 

 開け!!

 渾身の力を込めてドアに体当たりする。

 後ろを振り向けないけれど、すぐ後ろにナニかがいるのが分かる。


 耳元に生暖かい呼吸音が聞こえ、食物が腐ったようないらいらする臭いが鼻の奥に届いた。

 眉間に皺が寄る。

 全身に悪寒が走る。

 見えない大きなナニかは桜の体を後ろから覆い被すように両手を広げてきた。


 桜には大きく黒い影が自分の後ろから覆い被さってくる感覚だけが背中から伝わる。

 玄関のドアに額をつけて目をぎゅっと閉じ、出来る限り体を小さく丸め、ドアノブを掴んでいる両手に力を込めた。

 影に覆われ、視界が真っ暗になった。

 ごろんと音を立てて桜の足下に転がってきた物は、新聞紙にくるまれた白菜のようなもの。



 ナニ、これ。


 目を少し開け、足下に無造作に転がってきたモノに目を止めた。

 桜の足下に転げ落ちてきたその白菜のようなものを覆っている新聞紙が、何かに濡れたように、だんだんと赤黒く染まってきた。


「ひぇ・・・」


 声にならない声が口から吸い込まれた息と一緒に口から抜けた。


 包まれていた新聞紙がはらりと揺れ、舐めるようにゆったりと一枚一枚剥がれ落ち始めた。。


 ゆっくりと新聞紙がめくれ、包まれていたものが姿を現した。