黄色い線の内側までお下がりください


「ほら、早く」


 これを飲めば富多子ちゃんは助かるんだ。と考えることを拒否している脳に言い聞かせる。

 周りの空間は更に狭まり、さながらそこは棺桶の中。丸まった体は伸ばすことが出来ず耳鳴りが頭痛を誘発し、目の周りの筋肉が痙攣する。

 富多子をどこから助けるのか、なぜこうなっているのか、今彼女はどこにいるのかすらまともに考えられなくなっていた。

 あざみの言う通りに行動しないと自分も死ぬことになると薄々感付きはじめた大梯は、死の恐怖から逃れたいと切に思った。

 死ぬのは怖い。

 きっと苦しいだろう。それに、今のこの生活が無くなることは考えられなかった。

 この生活を手放したくない。永遠とは言わないまでもまだ死ぬことは当分先のことなんだと考えていたい。

 
 眼球が落ちるほどに大きく見開いたあざみの目はまっすぐに大梯をとらえ、動かない。

 その目はずっと見つめていられるようなものじゃなくて、一回見たらすぐに目をそらしたくなる。早く目の前から消え去ってもらいたくなるようなそんな印象。


「それを飲めば、富多子ちゃんは助かるの?」

「あなたも」

「...それは...」

「飲めば分かる」

「...富多子ちゃんと...僕の前に、に、二度と現れないって約束してほしい」

「二度と現れない...私は」

「この駅の...忌まわしい出来事も君の仕業だね?」

「...来たいって言ってきたから」

「...来たいって」「あなたは分からなくていい」


 大梯の言葉を遮って目の前に胃袋をつきだした。