黄色い線の内側までお下がりください


「もう...会うことは無い。でも......あなたはまだ終わらない」


 ふふっと見下した笑みに冷たい視線。


 ゆったりと立ち上がると一度空を見て目を閉じ顔にかかる雨粒を心行くまで感じる。


 紫陽花に持ち上げられるようにして、ホームの上に降り立ち、足をひきずりながら真っ黒くあいた巨大な穴の方へ一歩一歩歩む。


 嵐のような雨の音に電車が入ってくる音はかき消され、血と雨を吸った紫陽花だけが生き生きと咲き乱れている。


 あざみはその穴を覗き込み、そこに求めるものがあるかどうかを確認し、目を細くして頬を左右に引き上げた。


 なんの躊躇もなく頭からその穴の中へ落ちて行き、全てが飲み込まれたところで穴は徐々に大きさを狭め、やがて元の階段に戻った。




 あたりは静寂に包まれ、雨のにおいと風の音、見渡す限りが灰色の世界に戻っていた。


 ただ、戻っていないこともある。




 それは、線路で横たわっている富多子だ。


 彼女はまだそこに横たわったままで、自分に降り注ぐ雨を全身で受け止めていた。