落ちた顎を見て暫く考えたあと、なくなった顎を触ったあざみはゆっくりと顔を上げてうつろな目を空に向けた。
そこに何かがいるかのように首を横に振ったり瞬きをしたりしている。
富多子もつられるように宙を見るがそこには何もない。
何もないことを確認しあざみに目を戻せば、目の前、逃げられないところにあざみが立っていて、右手は既に富多子の胸についていた。
冷たい。
氷に触れられているような感触に全身の毛が逆立ち腹の奥がぐっと引き締まる。
「あたたかい」
富多子に触ったとたんに人間の形を取り戻し、生きていた時のような綺麗な顔に戻り、声もはっきりと聞こえる。
「...いやだ......冷たい」
手を振りほどこうとあざみの腕に触ろうとするが体がいうことをきかない。
この感じ、以前にも見たことがある。
線路に落ちる前にこうなっていたはずだ。
ぎこちない動きで引きずり込まれるのを何度か見てきた。
しかし不思議と怖くなくなってきている。
この先どうなるのか分かりきっているが、心の奥底では落ち着いている自分がいることに気づき、そこで戸惑う。

