黄色い線の内側までお下がりください


「あなたは少しうるさすぎる」


 あざみは骨が透ける両腕をぬらりと伸ばすと大梯のみぞおち辺りまでまっすぐに伸ばした。

 その途中で腐っていた左腕がぐちゃりと鈍い音を立てて下に落ちて転がった。


「...ほらね、もう時間がないの」


 落ちた自分の腕をいとおしそうに眺め、腕が抜け落ちた肩を見て悲しげに目を伏せた。


「きみは...」


 大梯はことばを最後まで言い切ることができなかった。

 まだ自由のきくあざみの右腕が大梯の首を素早く捉え、女とは思えない力で引き寄せられ階段があった場所にあいている巨大な穴の中に投げ捨てられた。


 暗闇に落ちていく大梯を目で追うことしかできない富多子の全身は震え、恐ろしさに歯がガチガチと音を立てた。


 逃げられないと言ったが、微かな期待と逃げられるという根拠の無い自信を持っていた。

 しかし今目の前で見せられたことで、あざみが本気で自分を殺しに来ることを確信し、死を目の前にしてさすがに『生きたい』という欲がむくむくと首をもたげ、富多子の頭を支配した。