甘い血の臭いがどこからともなく富多子の鼻腔にたどり着く。
臭いのする方へ顔を向けると、黒いカラスが1羽、ホームの端っこのほうで何かをついばんでいた。
どこから咥えてきたのか分からないが、小動物のようにも見えた。
足で器用にそれを抑えているがその黒い小さな塊はまだ動いていた。
最後まで生きようとしているその塊は、カラスから逃れようと、もがく。
富多子はカラスが自分を見ているような気になった。
目をそむけようとした時、カラスは足で抑えつけている獲物に鋭いくちばしを突き刺した。
ぎえぇぇぇ。。。ぐぐ。。。ぐぐ。ぐ。。。
不気味な鳴き声が最後の鳴き声となったその小動物は、最後の最後まで足だけはばたつかせていた。
しばらく痙攣し、動きがぴたりと止まるまでにはけっこうな時間がかかった。
血のたっぷりと滴る肉を喰いながら、カラスが喜ばし気に鳴き声を上げて富多子の方を向いた。
富多子は間髪入れず、階段を駆け下りる。
走りながらも全身に鳥肌が立ち、怖い気持ちともっと見たいという複雑な気持ちが富多子の脳を支配し始めた。
墓石の下に置かれている骨壺に向けて降りて行く、
そんな複雑な心境なのに、心臓は高鳴る気持ちにさせられたのか、ドクドクと血液を体に流す。
あざみは駆け下りる富多子の姿をホームの端から眺めていた。
姿が見えなくなると、目の前で仕留めた獲物にくちばしを突き刺すカラスを手で持ち上げ、自分の目の前で握り潰す。
小骨がばきばきと折れる音を辺りに響かせ、カラスの口から流れる血肉を飲むように自分の口元に持って行く。
嬉しそうに微笑みながら、長い舌を出してそれを受け入れた。