「もう、ダメなんだよ」
「富多子ちゃん聞いて。大丈夫だから、ここから一緒に逃げよう!」
「私だって逃げたいよ! でも、もう逃げられないんだよ...私は...」
「何言って......」
富多子の腕を掴もうと伸ばした大梯の手から逃れるように1歩後ずさった。
「なんで」
「逃げて...... 大梯君は逃げて。あなたには関係ないことだから」
「一緒じゃなきゃ意味ないでしょう」
見えなくなったあざみの姿がすぐそこにあるんじゃないかと思う焦りを抑えるように、諭した。
手をもう一度伸ばせば、躊躇しながらも手を伸ばした富多子の細い腕があと数センチで届く距離まできた時、二人の間に割って入ってきた冷たい空気。
「だから逃がさないって......言ったで...しょう」
ぼうっと立ちはだかるあざみの声は雑音の入ったラジオのようで、聞き取りにくい。
「ほら、富多子ちゃんだってそう言ってるんだから、あなたはさっさとここから出た方がいい」
「...き、君こそ、富多子ちゃんから放れろ! それにもう関係ないんだから僕達につきまとうのはやめろ!」
わめく大梯を不思議そうにながめるあざみは首をかしげ、その真っ黒くてきれいな髪の毛を左右に優しく揺らし、まばたきを1つ落とす。

