手をつないだまま階段に向かったが、降りることはできなかった。
あるべき場所に階段が無い。
そこには真っ黒で巨大な穴がぱっくりと大きな口をあけていた。
階段全てが穴と化していて、逃げる場所はどこにもなかった。
大梯はつかんでいる富多子の手首を更に締め付けた。
ぐっと引っ張られ、線路から片足を上げてよじ登ってきているあざみを避けるように反対側へ走った。
「大梯君、そっちは...ダメだよ」
体を固くして行くのを拒む富多子は捕まれている大梯の手を払い除けようとして手首を左右に振り動かす。
「ホームの端まで行って、そこから下に降りれば逃げられるから!」
「ダメなんだよ。そこはダメなの。下に降りたら絶対ダメなの」
「大丈夫だから! あとで駅員さんに言えば...」
「違う! そういう問題じゃない!」
大声を上げた富多子にびっくりした大梯はおもわず富多子の手を放してしまった。
「富多子ちゃん、時間がないんだよ。やってみなければなにも変わらない。ついてきて」
ふるふると首を振り続ける富多子の耳に大梯の声は届かない。

