「あなたが来なければ大梯がこっちに来る」
大梯という名前を聞いて一瞬体も心思考も停止した。
彼を失いたくない。まだまだこれからお互いのことを知っていかなければならないのに、ここで人生を終わらせるなんて、考えられない。
あってはならないことだ。
「大梯君は来ないよ」
「そう願いたいだけでしょう?」
「......なんで」
あざみがギシギシと音をたてるようにぎこちなく首を階段の方へ向けた。
まるでオイルがなくなってスムースに動かなくなったロボットのような動きは、腸(はらわた)をえぐり取られるような気分だ。
「ほら、来た」
富多子は呼吸を落ち着かせながら意識を集中させる。
来てほしくない。来ないでほしい。あのまま家で待っていてほしいと心から願った。

