ホーム上には富多子以外だれもいない。
ベンチに座り、止むことのない雨音をぼーっと聞いていた。
この世の醜いもの汚いものしがらみ恨みを全て洗い流してくれるような錯覚に陥りそうになったとき、後ろに誰かがいる気配を感じて体を固くした。
怖くて振り向けないが、頭上から見下ろされているということは分かる。
背筋、首から尾骨にかけて背骨の上から順番に電気が走った。
足の指先、手の甲まで鳥肌が支配して冷たい脂汗が脇の下を下へつたう。
子宮あたりが縮み上がり腹に力が入った。
冷たい空気が背中を撫で回し、ひやりとして気持ちが悪い。
首筋に生暖かい感触を感じ、思わずベンチから立ち上がり振り返った。
しかしそこには誰もいない。何もない。
線路の方を向いたがそこにも誰もいない。
ベンチのところにも線路にも何一つない。
紫陽花すら無い。
跳ね上がる心臓をおさえつけて息を整える。
もう一度ベンチに座ろうとしたとき、雨は本降りになり、周りの音一切をかきけした。
もちろん、あざみが発した声さえも。

