大梯は無意識に自分の腹に手を当てると体をくの字に大きく曲げて、嘔吐した。
地面に目を落とし再度あざみの方に戻すとそこにあざみの姿は無く、富多子の姿も既にない。
耳に入ってきた音は、ずっと降りやまない雨音と自分の肩に降り注ぐ雨の弾ける音、そらから自分の口元から垂れている吐瀉物だけだ。
世界はグレー一色の冷たいものと映り、濡れた髪の毛の先から透明の雨粒がぽたりぽたりと垂れ落ちる。
ここに守ってくれるものは何一つ無いことに気付く。
守ってくれるものが無いのなら、守るべきものはしっかりと守らなければならないことにも同時に気付いた。
「富多子ちゃん」
大梯が守りたい人は富多子だ。
少々自分勝手でわがままなところはあるが、自分に対しては素直で明るい性格で何より自分を頼ってくれている。
頼られることと自分を必要とされることが嫌いじゃない大梯は富多子のことを失いたくなかった。
青が点滅している信号を睨み、横断歩道を渡るべく腹をおさえたまま右足を前に踏み出した。
間に合いますようにと願いながら。

