黄色い線の内側までお下がりください


「大梯君」

「......ん?...朝?」

「ん。でもまだ早いから寝てて。私ちょっとコンビニ行ってくる」

「コンビニ? ん、じゃ一緒に行くからちょっと待って」


 そんな状態が何日間も続き、あいかわらずニュースではあの駅のことを報道している。

 気が滅入ってきた富多子はそろそろ限界に近かった。


 起きようとした大梯を、目の前なんだから大丈夫だよ、すぐ戻るしと言って寝ててねって言いながら笑いかけた。


「わかった。じゃ...気を付けて。早く帰ってきて」

「うん」



 雨は本降りになっていて周りの音を全て吸収し、薄暗い空は低く垂れ込み、黒く濡れたコンクリートの間で生活する全てのものをプレスする錯覚に陥る。


 傘をさして家を出た富多子は、家の前のコンビニには入らずにそのまま歩き続けた。


 傘に跳ね返る雨粒の音だけが富多子の耳に聞こえ、雑念は取り払われていく。


 行く場所は決まっていた。


 あそこしかない。


 この悪夢を終わらせるためには、あいつに会うしかない。



 それ以外に方法はない。



 傘を持つ手に力を込めて唾を飲んだ。