あざみにだって会わなくてすむんだから、この悪夢からも解放される。
「うん。できれば私も引っ越したい」
「早急にしよう」
そんな話をした1週間後には二人は話した通り引っ越した。
目の前は大学だ。
今までしていたバイトも辞めて、二人で大学の近くのお弁当屋さんで働くことにした。同じシフトで。
電車の音も聞こえない、電車を使う必用もないところに引っ越してきて正解だ。
あれ以来、あざみのことを思い出すことは少なくなっていき、さらに時間が経てば風化し忘れることができるだろう。
「なんとか二人で乗りきろうね」
「...うん」
手と手を取り合い、仲良く歩く。
大梯はなぜ富多子があざみを怖がるのかを敢えて聞かなかった。
なにかあるのは間違いない。
でも、自分に嘘をついてまで隠したい何かがあるのなら、それは無理に聞いてもきっと傷つけるだけ。
人間生きていればそれなりに隠したい秘密のひとつくらいみんな持っているはずだ。
無駄な詮索は避ける。それがお互い様だ。
言いたくなるまで待てばいい。
言いたくなければ言わなければいい。
そういうスタンスで接することにした。