黄色い線の内側までお下がりください


 耳に届く音は大きいものになり、音の聞こえてきた方向に目を向けた。



 大丈夫、まだ来ない。




 もう一度ホームに視線を戻すと、そこにあざみの姿はなくて、辺りをざっと見回したけれど、忽然と消えていた。


 いや、消えていたんじゃない。


 いつの間にか線路の真ん中に降りていて、こちらを向いたまま下を向き、体を左右に大きく揺らして両腕を反動にまかせて振り子のように振っていた。



 先頭車両が見えるようになったとき、あざみに異変が起きた。


 揺れていた体をぴたりと止め、下を向いたまま動くことを放棄したロボットのように突っ立っている。





「富多子ちゃんごめん、待たせたね」

「ちょっと黙って!」



 いきなり怒鳴られた大梯はびくりと体を強ばらせた。

 大梯の目に映った富多子は好奇心を隠せない顔をして、まっすぐに線路の方を見ていた。


 大梯にはあざみの姿は見えない。そこには何もない。



「...富多......」



 黙ってて! と、再度怒鳴られ、腕をきつく捕まれた。


 富多子の目に大梯は映っていない。映っているのは目の前に見えるあざみだけだ。



 ぎぎぎぎ.........というぎこちない音が富多子の耳に聞こえてきた。


 それは、下を向いていたあざみがぎこちなく首を上に上げていく音。