黄色い線の内側までお下がりください


 富多子と大梯は先頭車両に乗っていた。

 二人はこれから向かうサークルの話に夢中になっていて、あの駅に入ってきたことにさえ気づかなかった。


「すごい人数が来るんでしょう? 懐かしい友達に会えるかもしれないね」

「そうだね。富多子ちゃんの昔の友達にも会えるし、僕の友達にも会えるよ。きっと楽しいから紹介する」

「うん。私も大梯君のこと紹介したいなっ」

「なんか、いきなり言うのもあれなんだけどさ、これからもさ、一緒にいようね」

「うんっ」


 電車の中でも手を取り合って見つめ合う二人に回りを気にする余裕はない。

 二人の世界に浸っていて、甘い時間を過ごしていた。

 電車の中はもちろん公共の場でいちゃついているのは見ている方としてはあまりよいものではない。

 しかし、本人同士はそんなことも気分を盛り上げるための要素でしかない。



 富多子はそんな世界にとっぷりと浸っていて、駅に着いたことになど気づかないでいた。


 それが彼女のミスだった。


 先頭車両がホームに入ったところをしっかりと見て、手を振っていたあざみのことを見逃した。



 あざみは富多子を見つけ、笑顔で手を振っていたが、自分に気付かなかったと分かるとその表情を一変させ、

 白目のない真っ黒い目で通りすぎる富多子のを見続けていた。