黄色い線の内側までお下がりください


「バカな女」


 こぼれ落ちて転がっている目玉をカラスがくわえて飛び去った。

 もうひとつの目玉は黄色い線の上に残されている。その回りには無数の黒い塊、亡霊が集り、手を伸ばしたい衝動にかられていた。

 しかし、そこに触れた瞬間には自分も桜のようになることを分かっているため、なかなか踏み出せない。


 桜は線路上で不自然に曲がった腕と脚と顔を痙攣させていた。



「欲しいの?」



 あざみは黄色い線の上に血だらけになっている自分の足を乗せて、ホーム上から線路に押し寄せている亡霊たちを見下ろした。


 やはりあざみは自分たちとは違うということが分かると、皆一様に憎しみの目を向けた。




「なにその目。あなたたちは私には逆らえないのよ」




 半分黒く腐敗し変色している腕をぬるりと伸ばし、目玉に手を伸ばす。

 線路上からはこっちによこせと腕をあざみの方へ伸ばせるだけ伸ばし、乞う。



 すくい上げられた目玉からは透明な糸が垂れていて、腐りかけている分柔らかく、豆腐のように崩れやすくなっていた。