「なにしやがる」


 菊之助がぶち当たった胸元を払い、春芝は仏頂面になる。


「それでお前の性癖を正当化しようったって、そうはいかないぞ」


 転がって尻餅をついた菊之助は、膝を立てつつ反論した。


「自分でも嫌な癖だと思うなら、直せばいいじゃないか」

「簡単に言うなよ」

「俺だって人のこと言えた義理じゃないかもしれないけど、今の俺にゃ、悪い癖は努力して直す方法しか思いつけない」


 菊之助は鼻を鳴らしてみせる。

 春芝はやはり機嫌を損ねたように唇をへの字に曲げ、不満の意を露わにした。


「さっきまで俺に憤ってたくせに、すぐ急変しやがる。
おめえ、二重人格か」

「話を逸らすなよ。
あと俺あ、思ったことは口に出すことが多いだけだ。
生憎、慎みを覚えろ、って叱られたこたあないからね。
どんな話をしてたかなんざあ、知らねえが。
お前を悪く思ってるのに、変わりはないぜ」


 べーっ、とべっかんこうをして、菊之助はいじけた子供のように足早に歩んでいった。

 その背を追いかけながら春芝は、


「なるほどな、甘っちょろい所がある分、正義感も人一倍か」


 と倦厭して、苦虫の血を舐めたように舌先を露わにした。

先端が二つに割れた、長細い舌である。


「ひとつだけ、思ったことがある」


 春芝は立ち上がる菊之助の頭を軽く押さえつけた。


「おめえは、人を罵って諫めることしかできねえのかよ」

「罵るたあ、失礼な」


 毒づいたが、菊之助は対抗する言葉を失った。

その通りだったから、だ。