「またそうやって、君はぎゃあぎゃあと騒ぐ。

君の鳴き声は夏の蝉も顔負けだ」


 段田は横にあった文机に肘をついて、姦しそうに耳を塞ぐ。


「言っとくが、今日は一つも依頼は入っていないよ」

「なんだ、せっかく来たのに、俺はここで怒鳴っただけじゃないか」

「だったら怒鳴らなければよかっただろう」


 段田は生きる気力さえ喪失したような暗鬱な溜め息をつく。

この男を見ていると、心なしか怠くなる。

 段田は妖に逢うため、そして捕まえるためにこの妖花屋を開いたのだ。

妖を目当てに仕事を紹介しているのに、その仕事が来ないのでは元も子もない。

仕事が入ってくるまで辛抱するという行為がそんなに負担になるのか、段田は首を垂れていた。


「さっきまで妖と一緒にいたくせに。

それだけじゃ満足しなかったのか?」

「いや、毛女郎が居たうちは楽しかった。

だがもう彼女はいないし、次の仕事が来るまでは当分、妖を探してほっつき歩くか寝転がるかの生活だ。

気怠くて仕方がない」

「我が儘な野郎だな」

「五月蠅いよりましさ」


 ああ言えばこう言う。

 菊之助は言い返せなかったが、負かされたと思いたくなくて、呆れた奴だ、とばかりに不遜に腕を組んだ。


「ふん。

まあ旦那の好きにしろよ。

俺はお前の趣味にゃ関係がないからな。

仕事がないなら、俺あ帰る」


 ああ、ここまで来て損した。

菊之助は蟹股で帰参しようとする。

そんな子供侍の二の腕を、突然に段田が勢いよく掴んだ。

死人のような、凍てついた手である。

生ける者の体温ではない。

菊之助は吃驚して、「ひい」と幼子じみた声をこぼした。