「おい、お前、まだ全然読んでなかったじゃないかよ」
「うるさいな。
この本には、煙を使う怪物も魔術師も記されていない。
私が言うんだから、これは動かぬ事実だ」
肩を落とし、段田は眼球の雄蕊を持つ花の絵に一瞥をくれる。
彼の面差しはいささか深刻である。
「煙だか南蛮者だかは分からないが、私が求めているのは南蛮の怪物ではなくて、日本の妖だ。
外来の怪物なんぞには、さして興味はないね」
吐き捨てんばかりの言いぐさでる。
癪に障った菊之助はすかさず、
「求めるとか求めないとか、どうしてお前中心なんだよ。
妖だろうと怪物だろうと、人や妖どもが消えてるのに変わりはないぜ」
「妖と怪物を一緒にするな。
君には妖の魅力ってものが理解できないのかい」
「できない」
「妖は日本固有の種族。
常に人と共生し、そのせいか時たま人情に溢れた一面も見せる、珍しいものだ。
私たちが妖退治の仕事しか紹介しないのも、人間どもに迫害されて妖が数を減らす前に、捕まえて野に放すためさ。
心外にも、君は実力がある上に情け深い。
おかげで妖を生け捕りに出来た」
それでいい。
件の小瓶を取り出す寸前に、段田が囁いた一言が呼び起される。
あれは、菊之助がかけた情けに対しての、それでいい、だったのか。
いいや、それにしたって、段田の思考はあまりにも自己中心的だ。
「妖さえいればいい。
お前はそう言いたいのかい」
「うむ、そうだな。
人などいてもいなくても、苦にはならないしねえ」
「お前なあ」
菊之助があきれ返る。
「しかし、南蛮者風情が妖も見境なく襲うというのは、聞き捨てならないね」
「お前こそ南蛮者風情のくせに」
「そういう君だって、子供風情のくせに」
「誰が子供だっ!」
この自己中心の妖怪愛護家めが。
今度こそ段田の首を断ち切ってくれる、と菊之助の内に居る犬が咆哮するが、所詮、本気ではない。
菊之助は柄に触れた指を離した。


