「旦那よ。さっき話してた南蛮の妖ってえのは、旦那の仲間かい」
菊之助は直言した。
「毛女郎の話じゃあ、その黒煙の野郎は南蛮人の面をしてたんだろう」
「言っておくが、南蛮の怪物は妖とは呼ばない。
それに南蛮の怪物すべてが私の眷属であるということはない」
あら、お侍さん、ばっちり盗み聞きしてたのかい、と傍らで毛女郎が目を丸める。
しかしそんな毛女郎をそっち退けて、菊之助は真摯な面構えで段田に詰めよった。
「でも旦那は、悪魔とかいう奴らの中でも、生き字引も同然の物知りなんだろう。
その化けもんに心当たりとかないのかい」
「なにも、その男が人外のものとは限らない。
魔術師の可能性もある」
「ま、魔術?」
「魔法とも言って、まあ君は存じないだろうが……日本でいう妖しの術さ」
菊之助は、術は術でも剣術にしか能がない。
だから勿論、魔法だとか妖しの術だとか言われても、どういうものかはこれっぽちも想像がつかぬ。
「つ、つまりは。
南蛮からやって来た野郎が、その変な術を使って人や妖を襲ってる、ってのかい?」
「不忍池の件と古着屋の件。
それをやったのが同一犯であるかは、分かりかねるがねえ」
いかにも面倒くさそうに、段田は例の書物の頁をぱらりとめくった。
「む、さてはその旦那の本に、手掛かりが書いてあるんだな?」
「馬鹿を言うんじゃない。
それに覗いたって無駄だぞ。
ここに書いてある字は人にはおろか、悪魔にさえ解読できない」
段田は暫時、瞳を大きくして書物を眺めまわしていたが、すぐにぱたりと閉じてしまった。


