正直というか失礼というか、ある意味で蓮兵衛はこざっぱりとした性格だ。

 菊之助は蓮兵衛らの部屋の左隣に住んでいる。

 菊之助は自分らの部屋に着き、格子戸から中を見やった。

既に姉は帰ってきていた。

菊之助は格子戸を開け、獰猛な犬を斬り伏せた侍とは思えぬほど穏やかな様子で踏み入った。

「お帰りなさい、お菊」

 澄み透った声が菊之助を迎える。

この声の主こそ菊之助の姉、お百合(ゆり)である。

 菊之助……もとい菊は、自分なりに柔らかな笑みで返した。

「ただいま」

 竃で米を炊いていた百合がするりと立ち上がった。

しゃがんでいたから小さく見えたが、立ち上がってもまだ小柄だ。

 それにしても、はかなげな美女である。

 艶やかな黒髪を背中あたりで結び、薄萌黄色の小袖を身にまとった、齢二十ばかりの華奢な女人だ。

 肌は日に焼けて白さを失っているが、大きく丸い目が印象的であるからか、肌の色など気にならない。

 齢は今年で二十歳になるがまだ嫁入りをしておらず、楓河岸辺りの茶屋で看板娘として働いている。