「貴女を入れた小瓶を握りつぶせば、確実に貴女を殺せたでしょうが……」


 ここで、段田が些末な事をひとりでに語りだした。

言霊が長蛇の列をなす。


「私にとって、日本の妖とは非常に貴重で、かつ魅力的な怪物だ。

人と全く違う生き物でありながら、千代に渡り人と共生している。

しかも怪物にはない、人の眼に映らなくなる術と奇想天外な独自の姿を持っている。

そこに興味を惹かれる妖しさがあるのだよ。

そんな妖を殺すなど、私は魂を積まれたってしない」


 段田が語り終えるのをじっと待っていた女は、眠そうに目を擦った。


「……なんだか、あんたの物言いは、自分が人じゃないみたいだねえ」

「ふむ、確かに人ではないな」

「じゃあ、妖かい?」

「妖のようだが人のようでもある。

どちらであってどちらでもないものさ」

「人外なるものに違いはないんだろう。

それにしても、人外のもののくせにわっちに色目を遣わないなんて、変わり者だこと」


 女はそう言って、前にある湯呑に注がれた薄い茶を飲む。

段田は、あまりの茶の薄さに渋い顔をする女から視線をそらす。


「私は色情絡みの事には奥手でね」


 柄にもない台詞だ。

段田は物腰や仕草からして女慣れしている風貌である。


「く。まあいいわ」


 茶について苦情の一つでも投げてやろうとした女だが、段田に遮られ、言いかねて湯呑を置いた。


「わっちら毛女郎はねえ、昔っから男の妖どもの色目の的なのさ。

毛だらけの遊女のどこに惹かれるのかは知らないが、わっちをとり合って争う奴もいるのよ」


 濡れた瞳は段田を悉く見つめ回し、彼の本性を総捲りにしてやろうと詮索している。

 この男、人ならぬ空気感はあるものの、これといって面妖な特徴はない。

ほとんど円形に湾曲した癖のある髪型以外は、役者としても充分に通用する。

が、その漆黒の瞳のさらに奥にある虹彩は、鬼火のような蒼の燐光を帯びていた。