いなや、懐から細い小瓶を取り出して、親指でその蓋を開ける。
すると、
「あ!」
吃驚して菊之助は叫んだ。
無抵抗に座りこんでいた毛女郎がみるみるうちに白き煙となり、小瓶に吸収されていくのだ。
西国を舞台とする絵草子に、名を呼ばれて返事をした者を吸い込むという奇なる瓢箪が登場する。
あの小瓶はそれに類似していた。
「お、おいっ」
もしや毛女郎は死んでしまうのか。
敵の身を案じた菊之助は止めにかかるが、煙は早くも小瓶の中に収まりきっている。
「回収回収」
小瓶の蓋を閉める段田は、なんとも喜ばしげである。
菊之助は段田にくってかかった。
「旦那……お前って野郎は!」
言われても、段田は煩わしそうに菊之助を見下すばかりであった。
「なにさ」
「お前、仕事の際にやりたいことってのは、抗ってこない妖にとどめを刺す事かよ。追い払うだけでも良かっただろ。殺す必要なんざあ……」
「馬鹿な子だ、私は殺しちゃいない」
段田の語調は嘲笑気味だ。
ぶちり、と。菊之助のこめかみに浮かんだ青筋が血を噴いた。
「誰が子供だっ!」
感情に任せて菊之助は、毛女郎の件とはまた別の理由で怒り狂う。
しかし、怒りで知性も吹き飛んでしまったわけではなかった。
殺しちゃいない、という段田の言葉を想起し、直ちに憤怒の炎に水をかけ消火する。
「……本当か?死んでないんだな?」
「もちろんさ。悪魔にはほらふきが多いが、私は事によっては嘘をつかない。今がその時だ」
それはつまり、今後は、いちいち段田を疑わなければならぬといのか。
凛々しい眉を垂らす菊之助に、段田は満悦して呟きかけた。
「良い捕り物をさせてもらったよ」


