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 ……そして半刻歩き続け、


「ここだ」


 と段田が立ち止った。


「げげっ」


 菊之助は仰天して目をひん剥いた。

道の両側には外茶屋がずらありと並び、その大通りの先には煌びやかで巨大な門がどっしりと構えている。




 お江戸一の遊郭、華の吉原である。




「ほらどうした、入るぞ」


 段田に促されるまま、菊之助は放心状態のまま大門をくぐり抜けた。

手前には、わざわざ遠方から取り寄せられた菊、桔梗などの秋の花が、柵の内に植えられている。

それらの両側の道沿いには、これまたずらりと引手茶屋が建てられている。

引手茶屋では高級な遊女と遊ぶために大尽が宴をはっていた。

 あちらこちらが明るいため、宵の月がすっかり色褪せている。

菊之助は母にとっついて池を目指す小鴨のように、段田の着流しを握りながら歩くのだった。


すると、


(あっ、あれが花魁道中か)


 遊郭の真ん中、揚屋町と角町に挟まれた道から、若い衆と禿を引き連れた太夫が存在感を撒き散らしてこちらにやってきた。

菊之助は道の端に飛び退いて道をあける。