「俺の言おうとした事をお前が先読みできたのは、お前の面妖な術のせいだったのか」

 ひとしきり話を静聴し終えた菊之助は、腕を組んで納得した。

うむ、と段田がうなづく。


「じゃあ、悪魔も人には見えないんだな」

「いや、好きで見えなくなっているんじゃないぞ。
我々は、人の世では器を持たない。だから人に視えないのだよ。
実体を持つか持たないか、それがまた妖と悪魔の違いだ」


 妖、という言葉が気に入っているのか、段田の瞳は黒曜石に劣らぬ光沢を宿した。

言ってしまえば、人間らしい喜楽の表情であった。

 菊之助は小声で口を動かした。


「ううむ、そのあたりに事は、俺にはよく分からない。それにしても、だんたりおん、だなんて、変な名だ」

「君は私の事を変としか言えないのかい」

「だって、変なんだもの」

「なら、君はどういう名なら納得するんだい」


 そうだなあ、と菊之助は思案したのち、拳と掌に乗せて閃いた。


「じゃあ俺は、お前を旦那と呼ぼう」

「旦那だって?それは私の事か」

「おう。あの口入れ処、仕切ってるのはお前だろう。だから、お前は妖花屋の旦那だ」

「それは、江戸流の人の呼び方なのか?」

「ううん、すべてがそうって訳じゃないが、お前はもう旦那でいいじゃないか。
段田って名は呼びにくいから」


子供侍は妥協を一切許さぬ。

段田は物申す気も失せたのか、からん、と下駄を鳴らした