「お前、なんていう生き物なんだ?」


 どんな種族の、なんと称される化け物か。

菊之助は雀の涙ほどの純粋な好奇心で問うた。

黄昏と宵が同時に拝める、逢魔ヶ時と呼ばれる時刻。

妖たちがいっそう跋扈しだす時間帯の夕日は、段田の美貌を艶めかしく照らした。


「改めて名乗ろう」

 
 静かに段田が言った。


「お前は確か、段田って名は偽物だったのか」

「私の名は、段田、李音と言ったな」

「お、おう」

「真の名はそれを一つにまとめて、ダンタリオンと言うのだよ」


 なんだあ、同じじゃないか。

菊之助は落胆して力を抜いた。


「それが名前か。じゃあ姓はなんていうんだ」

「ないよ。妖と同じでね」

「名があるのに、姓はないのか」

「一応、私たちの種族をひとまとめにした名は在る」

「どんなのだ?」


 休みを知らぬ菊之助の質問に、段田は疲労した様子になる。

なるが、その一方で、時折まじまじと珍獣でも見つめるような眼を菊之助に向けていた。


「君のように、おしゃべりで好奇心旺盛な浪人は、いなかったな」


 ぼそりと呟いた段田の独り言が耳に届いたが、菊之助はあえて黙る。

おしゃべりはお前も一緒だろ、などと言って、話を逸らしてはならぬと思ったからだ。


「私たちの事をね、人は悪魔と呼んでいる」

「あくま、って、熊の仲間かなにかか?」


 次いで首をひねった菊之助に、段田は憐れんだ面差しになった。