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 段田に店の外で待機していろと命ぜられたのでしぶしぶ待っていたが、

遅れてすまない、の一言の代わりに、菊之助の頭に顎が乗せられた。

 すかさず菊之助は、段田を肘で払いのける。


「だから、人の頭に顎を乗せるなよっ」

「君の頭のてっぺんは、ちょうど私の顎の位置と同じなんだ」


 段田は淡々と屁理屈を並べる。ちっとも悪いと思っていないらしい。


「だいたい、上から押さえこまれると嫌な感じがするんだよ。胸糞が悪くなるっ」

「ははあ。さては、大人に負ける自分に劣等感を抱いて、憤っているんだな。なるほど、子供ならではの心理だな」

「誰が子供だっ!」

「君だろう、子供は」


 あからさまに揃えた五本指の先で笑んだ口元を隠し、南蛮風の怪しき書物で菊之助の頭を軽く叩いた。


「お、ま、え、な!」


 菊之助は熟した梅干しのような顔色になる。

 これだけ騒いでいるのに、周囲の者はまるで目にも留めていない。

菊之助はそれがふっと気にかかった。

どうしたことだろう。


 普段の彼らなら、


「おっ、色男と色小僧が喧嘩かい。どうした、女の取り合いか?」


とはやし立てるだろうに。