ここはさして散らかってはおらず、埃も蓄積していない。
ということは、やはりここの者が掃除しているのだろう。
人は居るはずだ。
菊之助は指の節で柱を軽く叩いた。
軽快な音が木霊する。
奇っ怪な品々が並ぶ部屋の中、ただ一輪、奥の壁に挿された白菊のみが絢爛に咲いている。
棚の上に活けられている菊である。
店内は暗い。
それなのに白菊はどこか淡白な光が放たれていた。
確かに、妖花だ。
菊之助は思わず、
「うお、奇麗だなあ。あの白いやつ」
「そうだろう」
突然聞こえたそれは、野太くも柔らかい男の声だった。
たて続けに、菊之助の頭の頂に硬いものが乗せられた。形の良い、人の顎だ。
声の主が言った。
「男にしてはよく分かっているじゃないか。ついでに、菊とは古来より不死の妙薬として知られている」
「おいっ……」
「白菊が象徴する言葉は真実。覚えておきたまえ」


