百合を攫われてしまった直後に、心のどこかで「無理だ」と諦め、疲弊した体につられて足を止めたのも、自分の未熟さゆえだった。

この期に及んで、もしかしたらどうにかなるかもしれない、などと希望を抱いていたのだ。


(俺が甘かったんだ)
 

自己嫌悪している暇があるなら、まず優先すべきは、あの化け物を斬る事だ。

いや、もし斬ることができないとしても、考え付く限りのあらゆる手を使って百合を取り戻す。
 
たっぷりと水気を含んだ袖で顔を擦り、身体を前に傾ける。

その時。
 

形の良い顎が、子供侍の旋毛に乗せられた。菊之助の動きが静止する。


「……なんだよう」
 

菊之助は唸る。

他人ではないと分かっていた。

人さまの頭に躊躇なく顎を乗っける不埒者など、菊之助は一人しか存ぜぬ。