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 妖の黄金期は平安の都があった時代。

そしてその次なる黄金期がこの江戸の時代である。

今でも曙や夕方に江戸の町を歩けば、

そこらじゅうに猫又だとか大蛙が堂々とふんぞり返って闊歩するのを見かける。

 時は夕七つ。

菊之助は肩を下落させて口入れ処の格子戸をぴしゃんと閉めた。

 つい先ほど、

「また剣の仕事かい、浪人の坊や。こんな平和な世の中、剣術を使う仕事なんざ滅多にないからねえ。坊やが望む仕事は、もう一つも入ってきてないよ。それ以外ならあるが」

 口入れ処のおやじは困ったように頭を掻きながら言ったのだった。

 それに菊之助は、

「無用」

 菊之助はいじけて吐き捨てるや、さっさと口入れ処を後にした。

 そして、今に至る。

(平和な世は、侍にとっちゃ迷惑な世だ)

 なにしろ菊之助には剣術以外に出来ることなど皆無なのだから、口入れ処のおやじ曰くの、

「それ以外」の仕事など上手くいくわけがない。

(どうしようかな)

 働かざるもの食うべからずとはいうものの、肝心の働き口が少なすぎる。

可能ならどこぞの大店で用心棒として雇ってほしいが、用心棒が子供とあっては、雇った側からすぐに暇を出されるだろう。

女とばれればなおさらだ。