各々の前に夕飯を置き、食事へと移る。
二人の間柄を知らぬ者には、まるで粋な夫と美しい妻と見えるだろう。
それくらい、菊之助は食事の仕方にも女っ気がない。
飯を口にかっ込みながら菊之助は懸念を露わにして問いかけた。
「けど、姉ちゃんのほうこそ茶屋で働いてるんだろ。茶屋って場所によっちゃあ酒の相手をするというし」
「あら嬉しい、心配してくれてるの?」
「おう」
「いいのよ。あたしゃ茶汲み女じゃないからね」
百合が長く優美な睫毛を伏せる。
味噌汁を啜って菊之助は、
「姉ちゃんに軽く手え出す野郎は、大の男でも叩き斬るつもりでいる」
と、小さく唸った。
そうとも、百合に悪さをするなど、例え異国の王であっても言語道断、許しはしない。
そんな菊之助の小言が、どうしてか百合の耳に入っていた。
「あたしみたいな勝気な女、誰も手出しなんかしないさ」
かはは、と百合は陽気に笑んでみせた。


