「なんだって」 「黒い雲みてえなのが飛んできてよ、そいつが小僧の兄ちゃんを連れ去って行ったのだと」 「む、もしや例の神隠しじゃあねえのかい?」 「雲がどうやって人を攫うんでい」 「こりゃあ、妖の仕業に違いねえ」 小僧の背をひたすら撫でる百合と、泣きじゃくる小僧を、菊之助は呆然と眺めていた。 小僧の兄を攫ったのは、あの黒煙だ。 「……野郎お!」 あれを負かせなかったどころか、新たに人が攫われた。 菊之助は己に悔恨する裏で激しく怒り、がん、と鞘を地に力いっぱいめりこませた。