やめてくれと言われても、かれこれ二年も修羅場をくぐり続けてきた身である。
餅は餅屋というし、刀しか扱えない侍が、他の稼業に転職などできようはずもない。
嘘をつく以外、菊之助にはどうにもならぬ。
「やだなあ、姉ちゃん。俺あそんな度胸もないし、強くもないぜ」
「あんたは昔っから男勝りで短気で、小僧どもよくとっくみ合いをしたじゃないか」
確かにそんな時期もあった。
さすがは姉だ。
菊之助の性質を誰よりも熟知している。
「そうだったような、気がする」
菊之助はしらばっくれる。
「そうよ。三つも年上のがき大将と喧嘩になったりなんて、もうしょっちゅうだったろう」
「うむむ……いまいち覚えてないな」
「あの時はまだ幼かったし、最後には丸く収まったけど、大人の破落戸は容赦ってものがないからね」
いいや、菊之助ならば、もう破落戸など相手ではないだろう。
だがそれを言ってしまっては元も子もないので、菊之助は暫く黙りこむ。
「別に、物騒なこたあしないよ」
いくら男勝りで屈強とはいえ、人を斬り殺したことは一度もない。
刀の背で打ち、気絶させるといったみねうち程度のものである。
だから、生死に至るほど物騒ではない。
そう考えて、菊之助は無理矢理に納得した。
嘘を透徹して、菊之助は炊けたと思われる飯を椀に盛り、それらを床に置く。
「飯、運ぶよ」
「あい」
応えて、百合も味噌汁を入れた茶碗を両手に土間から上がった。


