「そにー、なんだ?」

「歴史的食人者の一族さ。
その本にはね、世界中の身の毛もよだつ事件が記されているのだよ」

「地獄絵図じゃないのか」

「すべて実録だ」


 告げられて、菊之助はおもむろに書物を他のものと一緒に運んだ。


「なあ、旦那よ」


 菊之助は萎びた声で言った。


「じゃあ、あの人が串刺しにされてる絵も、本当にあったことなのかい」


 菊之助は、どこかか弱さを含んだ問いを投げつける。

段田は、ふむ、と思惟する姿勢になった。

そして指折り数えて四つ。

 段田はやっと、


「そうだねえ。
あれもたしか、実際に起こった事件のはずだ」


 と、答えてくれた。


「げえっ、そうなのかい。
気持ち悪いなあ」

「猟奇的な処刑法はどの国にだってあるさ。
この国だって、釜茹での刑とかがあるだろう。
石川五右衛門はそれで刑に処されたと聞く」

「じゃあこれは、処刑、なのか?」

「うむ。
串刺しはたしか、ルーマニアの王子が好んだ刑罰だな。
他にも色々とあるぞ。
ファラリスの牡牛は特にひどい刑罰だな。
あれは悪趣味だ」


 江戸にも、鋸引きや磔という斬首より熾烈な刑罰が存在する。

尊属殺しなどの重罪に用いられる刑であった。

それがどういうものなのか、菊之助も知っていた。


「……もういいや」


 嫌気がさしたとばかりに、菊之助が書物をしまう。

肩が落ちてきた。


(……犬は斬り殺せたくせに)


 菊之助は自己を呵責するように、いつの日かの黒い犬を頭に浮かべた。

 どうにか気を紛らわそうとして、ひたすら刀の柄を触る。


「菊之助。
刀なんか触ってないで、手を動かしてくれよ」


 段田は菊之助の懊悩などお構いなしだ。

菊之助はとっさに刀から手を放した。


「言われなくたって、ちゃんとやってらあ」


 菊之助は抗議して、これ見よがしに大量の本を積み重ね、ちゃくちゃくと作業を進める。

黒い犬の面影は、一瞬の反発心で掻き消されていたのだった。