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 妖花屋の床下には、鼠が巣食う軒ではなく、数え切れぬほどの棚が設置された大部屋があった。

壁は木材ではなく、茶色と白の四角い石らしきものでできている。

床は一面にびっしりと褐色の石が敷き詰められていた。

 そして部屋の隅には、巻物だとか南蛮の書物だとかが、読み漁られたままなのか山積みになっている。

 小山が如くそびえる書物に、菊之助は首を痛めるのだった。


「まさかこれ、全部片づけるのかよ」

「うむ」


 段田が軽くうなづいた。


「それを一番奥の、右端にある黒い棚に入れてくれればいい」


 菊之助はその黒い棚に目をやった。

たしかに、そこらにある棚よりも一回り大きく、容量もありそうだ。


「ちぇ、人を無駄に働かせておいて平然としやがる。
ほんとうに……」


 ぐちぐちと文句を溢すくせに、菊之助はやたらてきぱきと片付けを始めた。

段田も春芝も、腕に書物の柱を抱いて黒の棚に収める。

 今日は、あのひとりでに浮く茶碗や座布団を目撃しない。

 菊之助は重たい書物を一つ一つと積んでいき、ふと、手にした一冊の書物に集中を注いだ。

 その書物は段田が常に手にしているものを同じ形で、外側が分厚い。

文字は読めぬが、表紙にある悶える人々の絵は、その書物の内容を語ってくれた。

南蛮の地獄絵図だろうか。頁をさらにめくっていくと、人が業火や刃物、磔の刑によって死んでゆく様子が描かれている。

 菊之助は暫時、書物の片づけなど忘却して、冷や汗を垂らしながら書物にくいついていた。

 十字に組まれた丸太に縛られ、生きながらに焼かれる女たち。

木の杭に貫かれる者たち。

四肢を分離されて野に捨てられる者たち。

人の肉体にかぶりつく者たち。


「ソニー・ビーン一族の事件だね」


 菊之助は上から声をかけられて思わず書物を閉じる。

段田が背を曲げて覗きこんできたのだ。