理想の子

よりかちゃんが部屋に入った後、どきどきする心臓に手を当てて深呼吸していると、

ピリリと居間の電話が鳴った。


「はいっ、もしもし」


『もしもし、桐江です。

お義母さん、唯香はもう着きました?』


電話の主は、次男の嫁だった。

唯香というのは、来年度から市内に就職する孫である。


「ううん、まだ来ないよ」


『そうですか……バスに乗り遅れたのかもしれませんね。

唯香の携帯にかけてみます』


「うん、そうして。

それからね、大事件よ。

うちによりかちゃんが来たの」


さっきから誰かに言いたくてうずうずしていたことを打ち明けると、電話の向こうで嫁がきょとんとする気配がした。


『え?
よりかちゃん……て、誰ですか』


「もう、知らないの?
あれよあれ。

よいこのヨっちゃん、
りこうなリっちゃん……

人間よりかわいい、よりかちゃん」


CMの曲を歌ってやると、ああ、と、やけに低い声の相づちが返ってきた。


『【人はついにアンドロイドで愛情を満たすほど落ちぶれた】

とか、

【しょせんはロボット】

とか、一時期話題になったアレですか。

結構高いって聞きましたけど、お義母さん、家計は大丈夫なんですか』


思ったよりも嫁の反応は不粋で、少し気分が萎える。


「お金はかからなかったの。
よりかちゃんが自分で来てくれたんだから」

『え……?
それって……いえ、分かりました。

後で唯香に聞いてみますから、唯香がそっちに着いたら連絡お願いします』

「はいはい」


せっかくの気分が汚されてしまった。

でもいい。

私にはよりかちゃんがいるんだから。