理想の子

部屋の荷物も、洋服も、小さな茶碗や歯ブラシも、よりかちゃんのものは一式全部、丸ごとなくなってしまったのだ。


町なかに飛び出して捜し回ろうか、警察に電話しようか、と混乱する頭で居間のちゃぶ台の周りをぐるぐる回っていると、

電話の脇の貼り紙に、よりかちゃんの筆跡で電話番号が書いてあるのが目に入った。


家族になった最初の日に、よりかちゃんが「何かあったら連絡してね」と言って書いてくれたものだ。


すがる思いで電話に飛び付き、その番号をプッシュする。


コール音が1回、2回……

8回目。


『……もしもし』


「その声!
よりかちゃん、よりかちゃんでしょう!?」


懐かしい声を聞いて、泣きだしそうになる。

前に会話したのが、もう何年も昔のようだった。


だが、電話の主はこう言った。


『あのねおばあちゃん、私はアンドロイドじゃなかったの。

人間だったの。

つまり、自分の意思があるってこと。

おばあちゃんとは違う意思。

私はそれに気付いたから、もう1度おばあちゃんと向き合えるようになるまで、テレビの中へ帰ることにしたんだよ。

だから。

だから、待ってて。

私がもっと大人になって、おばあちゃんの理想に付き合えるようになるまで。

……お願いだから』