理想の子

よりかちゃんはだんだん、私を遠ざけるようになった。


ある夜、お風呂場へ向かう前に、よりかちゃんはこう宣言した。


「おばあちゃん、いつも洗濯ありがとう。

でも、これからは私が自分で洗濯するよ」


そんな、と思わず叫びたくなるのを我慢して、私はなんとかよりかちゃんの言葉を覆そうと声をかける。


「また遠慮しているの?

いいんだよ、私はやりたくてやってるんだから」


「でも、おばあちゃんに悪いし。

それに、家ではいつも自分でやっていたから」


よりかちゃんの告白に、私は耳を疑う。


「『家』って何のこと?

ここがよりかちゃんの家でしょう」


震える声でよりかちゃんに言うと、よりかちゃんは涼しい顔で答える。


「ここじゃなくて、お母さんとお父さんがいる家」


驚きで、心臓が止まるかと思った。

お母さん?お父さん?

よりかちゃんは私の子なのに。

どうしてそんな変な記憶が入っているのだろう。

私以外に、親と呼べる人がいるなんて。


「違うでしょ?

よりかちゃんは私の子でしょ?

こうして一緒に住んで、2人で一緒に幸せに過ごしてきたじゃない。

よりかちゃんが幸せになれるように、私は精一杯頑張ってきたつもりだよ」


しゃべりながら、鼻の奥がツンと熱くなる。

私は、よりかちゃんの幸せを作ろうと、一生懸命だったのに。


泣きだしたくなるのを必死にこらえて、やっとのことで私は告げる。


「ここじゃない家のことなんて忘れて。

そのお母さんとかお父さんとかのことも忘れなくちゃ。

私の家があなたの家。
私があなたの親。

それでいいじゃない。
何が不満なの」


不満なんてないよと、おばあちゃん大好き、おばあちゃんがいればそれだけで幸せだと、そう言ってくれればいいのに、


よりかちゃんは、ただ小さく

「ごめんなさい」

と言っただけだった。