恐怖短編集

一哉の顔をした一哉の口付け。


干からびていない唇は柔らかくて、ちゃんと温もりがあって。


抱き締めてくれる手もそれと同様、優しい男のものだった。


ずっとずっとほしかった。


求めていたものが、今目の前にある。


栞の中から、自分とその人を隔てていたものが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちて行った。


「私も、愛してるわ」


偽物の一哉に抱き締められながら、うっとりと目を閉じる。


栞の糸は、完全に切れてしまった。