フローズン・パール



 だけど、ここに入れていこう。

 私は冷凍庫のドアを引き出す。

 ほとんど物の入っていない冷凍庫の端っこに、右手薬指から指輪を外して置く。

 薄暗い冷凍庫の中で、リングに嵌められた小さなパールが光った。

 だけど見えないフリをして、ドアを閉める。


「資産凍結、完了」



 エンゲージリングは男の決意だよ。

 4年前の冬、彼がそう言って笑った。

 婚約期間中に男に万が一のことがあった時用に、大切な女性に指輪を贈る風習が出来たんだってさ。

 それを現金化したらそれなりのお金になるようにって。

 食べるのに困らないように、君の一生は俺が守るっていうことを形に表したんだって。

 だから今でも給料3ヶ月分って言うんだな、って。

 照れた顔であの日、言っていたのだ。

 だから、エンゲージリングには絶対いいものを贈るからって。ダイヤモンドのついた、いいものを。

 それまではこれをお守りにして。

 そう言ってくれたのだ。小さなパールがついた華奢なリングを。

 パールは私の6月の誕生石だった。ありがとうって言って、彼に抱きついたのを覚えている。

 私はそれを仕舞った冷凍庫を振り返って見詰めた。