「大丈夫? ひよ」


丁寧に髪を洗いながら、けれどのんがそんなことを聞くから。

やっぱりのんは、あたしを心配して来てくれてたんだと思う。



「……うん。
大丈夫」


大丈夫って。
そう、言うしかない。

のんにでさえ。
世界の終わりのことは秘密なんだから。



「本当に?
なんか、ムリしてない?」


……ムリ。

してないって言えば。
嘘になる。


『烏滸がましい』
『同情』
『偽善』


瑠樹亜が山本に向けて口にした言葉は全て。
あたしにも向けられていた言葉で。

そこには。
瑠樹亜の痛みがびっしりと詰まっていて。



「……ムリなんか……」


してない。

そう言いたいけど。

ダメだ。

やっぱり涙が滲んでくる。



「ひよ、何か変だと思ったんだ」


「……う……」


「瑠樹亜がひどいこと言った時。
自分が言われてるみたいだって、思ったんてしょ」



ザアザア

シャワーをかぶりながら。
のんの声はよく通って。
それがよく、染みてきて。

あたしの頬には。
ポロポロと涙が落ちてくる。



「ひよは、瑠樹亜のことになると、めっちゃ繊細になるから」


「……うう……」


「瑠樹亜の言うことに、傷付いたんじゃないかって思った」


のんは『傷付いた』なんて言うけど。
厳密に言うとそうじゃないよ。


山本の痛みと。
瑠樹亜の痛みが。

あたしの痛みを呼んだんだ。

辛かった。

辛くて。
辛くて辛くて。


「泣いたらいいじゃん」


のんの、よく通る声。


「いっぱい泣きなよ。
わたしが、シャワーの音で消してやるから!」


ザアザア。
ザアザア。


シャワーの雨で。

あたしの、涙も。
流れていけばいいのに。




………



……