美山さんと斉藤先生が……

……キス?


そんなことが。
本当に……



「あ、あたし、見たもんっ……
公園の駐車場で……
斉藤先生と、美山さんが……斉藤先生の、車の中で……」


弓子さんは、なぜか泣きそうになってる。

泣きたいのは、きっと、山本の方なのに。


「……おい。
おい、瑠樹亜!」


そこで山本が矛先を向けたのは。
壁に寄りかかったまま表情ひとつ変えずに本を読んでいる瑠樹亜だった。

突然名前を呼ばれた瑠樹亜は、けれど驚いた様子もなくこちらを見る。



「本当かよ」


山本の声が据わってる。


「弓子の話、本当なのかよ」



………


みんなが、瑠樹亜の綺麗な顔を見ていた。


沈黙が、長い。

瑠樹亜は無表情なままで、ふう、と小さく鼻を鳴らした。


仕方ない、というように、文庫本をパタンと閉じる。


「僕は現場を見た訳じゃないから、その人が言ってることが本当かどうかは知らないよ。

けど、章江が斉藤先生と関係があるのは事実だと思う。
そう、僕は聞いてる」



『章江が斉藤先生と関係がある』

瑠樹亜の言うそれが、いったいどういうことなのか。

あたしには、分からなかった。



お父さんに暴力を受けてる美山さん。
瑠樹亜しかいないと言った美山さん。

あたしに……
笑いかけてくれる美山さん。



「だけどそれは、章江の意志じゃない」


瑠樹亜の声のトーンは、怖いくらいに変わらない。

とうしてこんなにも。

この人は無機質でいられるのだろうか。