「アラタさん、お待たせしました…」

アラタさんは、私の存在に気付いていないようで…。私は、不思議に思って、アラタさんの携帯を後ろから覗き込む。

そこには、『篠平真由美(シノヒラ マユミ)』と、いう女の人の名前からのメールを開いているアラタさんがいた。誰だろう…?篠平真由美さんって。
メール本文には、『……秘密にしててゴメンね』と、打ってあった。
秘密にしててゴメンね……?何を秘密にしていたんだろう?

「……まゅみ……」

女の人の名前を呟いた、アラタさんの声は、どこか寂しげで。悲しくて…。ちょっとだけ、後悔の声が混じってて…。その声を聞いた私の心の中に何かが溢れてきた……。

「あっ、……アラタさん、お待たせしました」

それは、言葉に出来ないけど。今、思ってる事は、『過去に何があったのか知りたい』だった。

「ぅおぉぉわぅあぁあいえぇぇえ?!?!」

アラタさんは、凄いスピードで携帯を閉じてポケットの中に入れた。

「もうちょっと普通の驚き方は出来ないんですか?」

「わっ、悪かった……。って、優!いつから、いたんだ!!心臓が飛び跳ねたぞ!」

「スイマセン……」

「まぁ、別に良いけどな!よし!それじゃあ行くぞ!僕の家に!」

「えっ、ちょっ?なっ、何でですか?!」

「そんなもの!襲うに決まってるからだろ!バカだな!優は!」

「いや、バカなのは、アラタさんですから!」

「何だと?!996点をとった僕の、どこがバカだと言うんだ!」

「精神年齢が、低すぎてバカだと言ってるんですよ!」

「何だと?!否定出来ないな!」

ワハハハハっと、アラタさんが大笑いした。

「そっ、そうですか……」

急に、自分のバカを認めたから、ビックリしちゃった……。

「本当に…僕はバカだ…」

「アラタさん……?」

何だか、今日のアラタさん様子が少し…いや、凄い変だ……。篠平真由美さんと、何か関係があるのかな?

「…………。よし、早く帰るか。優の家にな!!」

「はい…」

アラタさんの綺麗な青色の瞳には、涙が少し溜まっていて。私は過去に、何があったのか気になった。

「ほら、優。手、手!」

アラタさんは、私に手を差し出してきた。私は、少し戸惑ったケド、アラタさんの手を握った。アラタさんは、一瞬ビックリしてから直ぐに笑顔になって歩き出した。

「アラタさん、私の家逆方向です」

「今の一言で、良い雰囲気が台無しだな!」

「どこに、連れて行こうとしてたんですか?」

「ホテっ…。ぃてっ……」

私は、アラタさんの脚を強く蹴った。……いつものアラタさんと、今のアラタさんは、何かが違う。

その何かは、分からないケド……。私は、感じていた。

私と関わるのは、何か理由があるんじゃないかって……。