「隆史くん、誕生日、おめでとう。」


祝いの席には似つかわしくない、寂しい音となってその言葉は吐き出された。


『咲子の手料理が食べたい』、そう言った彼の為に作った料理だ。


今日も、彼は帰って来ない。


同棲し始めてもう半年になる。


友達が多い彼は、同棲を始めた頃から遊びに出掛けることが少なくなかった。


それでも帰らない日は無く、私を大切に思ってくれていることが実感出来たから寂しくはなかった。


誕生日の話は、もうだいぶ前からしている。

大好きな彼に喜んでもらいたくて、積極的にリサーチしていたのだ。


そんな彼からいつも返ってくる返事は、「咲子と一緒に居られればそれでいい」の一言だった。


それでもしつこく聞く私に、ようやく注文してくれたのが「手料理が食べたい」という言葉だった。


「いつも食べてるのに‥」と思わず零れたが、誕生日には特別腕を振るおうと心に誓ったのだった。



彼が帰って来なくなったのは、2ヶ月前の金曜日。

置き手紙と共に。